副題:「成長と発展の文明史」 2006年8月発行 475ページ 著者は:投資家のウィリアム・バーンスタイン氏(William Bernstein) 翻訳は:徳川家広氏
これはすごい本です。著者は経済学者ではありませんが、その知識に圧倒されます。戦争や政治的な革命の要因を横に置くことによって、この200年間の世界史における富の増大を解明しようとした本です。
著者は、「近代経済成長の鍵」となったのは,冒頭で
①私有財産権 ②科学的合理主義 ③資本市場 ④迅速で効率的な通信・輸送手段
の4つがその条件だと結論づけています。この時点でもう分かったような気になってしまうのですが、それからが極めて奥深い。
第一部では、西暦1820年ごろに急激に富は増大したのはなぜか?近代経済成長の源泉である上記の4条件の成立する過程をひとつずつ詳述します。
現在の先進諸国は19世紀から20世紀を通じて国民一人当たり平均年間GDP成長率を2%程度に加速させて、その水準を維持してきており、先進国の成長率は2%に収斂することが述べられています。
ちなみに、現在の日本の年間GDP成長率は2%より低く大きな問題だと言われていますが、バーンスタイン氏は世界史の長期的観点からするとOECD諸国の中でも、やや低い日本の現在の成長率が本当に問題かどうか疑問を提示しています。それよりも国民の豊かさの意味を追求しようという姿勢です。
世界全体の一人当たりGDPの推移を見ると,1820年以降世界は一貫して豊かになり続けている。著者はその1820年の経済成長の大爆発の原因を探る。そのために、1600年以前のヨーロッパの日常生活の実態を詳しく論じている。
そして、ヨーロッパの中ではイギリスでなぜ産業革命が起こったか、その背景も説明。要は上記4要素のうちひとつが欠けても近代経済成長は困難であるが、イギリスでその4条件が揃ったということである。このあたり、そのままイギリス憲政史やアメリカ建国史として読めます。
第2部では
「産業革命」 現代先進国の豊かさの起源は産業革命ではない。その国の制度にある。
「工業国家」 1960年代には世界の政策エリートは工業化こそが繁栄の必須条件であると結論づけた。しかし工業部門が小さいオーストラリアは後進国ではない等、工業化が豊かさの条件ではないことを説明している。
「イギリスとスペインの違い」 オランダやイギリスで芽生えた近代経済成長を述べ、フランスやスペインはなぜ出遅れたのかを説明。現代のラテンアメリカの貧困はこの時代のスペインの前近代的財産制度をそのまま引き継いでいることに原因がある。
「日本の戦後成長」 日本の、第二次大戦後の成長はマッカーサーによる政治と経済の民主化だと言うが、本当はアメリカ軍の駐留によって戦前の50%にも達した軍事予算が不要となり1%程度で済んだことが大きいと言う。勿論、日本人の身につけた西欧的な制度と知識の下地は無傷であったために、すばやく経済が回復した。
「イスラム国家の問題」 イスラム文明の衰退は私有財産制度と法の支配が不十分であると言う。それは15世紀にコーランの解釈を固定し、将来の新解釈を拒絶して、その結果、改革をあらかじめ拒絶している事に基本的な原因がある。
「マルクス主義の誤り」 資源がない国でも豊かであり、マルクス主義が主張する貧困の原因は帝国主義的収奪だと言うことの誤りを指摘。
大事なことは、支配者が生産的な経済活動をを妨げず、かつ十分な歳入が得られる税制を敷き、国民に治安や衛生などの行政サービスを提供すること、そういう国は繁栄する。
第3部では
「豊かさは人を幸せにするのか」 という哲学的な問いに各国の意識調査結果のデータ等に基づいて実証的に論じる。
「幸福のピラミッド」 人間の衝動・欲求には優先順位がある。すなわち①食物・水・空気等の生理的欲求②身の安全と安定した職業を欲する安全の欲求③家族や共同体などから得られる帰属感という親和欲求④地位に関する自我欲求⑤自己実現
「幸福を科学する」 幸せの度合いは、経済状況、雇用、健康、家族の状態の4つの指標から導かれる。
「隣人効果」 金持ちが近くにいて、それをテレビ等で見るだけでも、惨めさを感じてしまい、自分たちは貧乏だと思う。
「日本の幸福指標」 現在の日本はお金で幸福を買えない状況にあり、それが問題。
「アフリカ諸国などへの経済援助」 いわゆる箱物援助は無意味だ。アフリカには裁判官と弁護士の養成が先決事項である。法の支配と財産権の確立をまず確立すること。
「成長と平等」 富と所得の格差があまりに大きくなると、平均的な市民の幸福感は損なわれ、人々は社会の一員であるという気持ちを失ってしまう。
「所得と富の再分配」 累進税率の適用などによる、所得と富の再分配が肝要である。例えば意識調査で幸福指標のトップに位置するアイスランド・オランダ・デンマーク・スイスなどの国は所得再分配を重視した税制を敷いていて、貧富の格差がそれほど大きくない。
最後に、著者は持続的経済成長に対する最大の脅威は、豊かになれば国民が政府に対して要求する項目が増えていくことかもしれないと述べる。しかしながら著者は、世界の未来予測は困難と言いつつ、人類の叡智を信じて楽観的であることが読み終わって大きな救いです。
「ブログ管理人の意見」 内容を一言で書くことが難しかったので、ややダラダラした書き方になりましたが、ご容赦ください。
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